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東京地方裁判所 平成8年(ワ)21790号 判決

東京都世田谷区赤堤一丁目一九番二一号

平成八年(ワ)第二一七九〇号事件原告

平成八年(ワ)第二二四二八号事件原告

平成九年(ワ)第一七六六四号事件被告

平成九年(ワ)第一七六六五号事件被告

中曽根信一

(以下「原告中曽根信一」という。)

東京都世田谷区赤堤一丁目一九番二一号

平成九年(ワ)第一七六六四号事件被告

中曽根善江

(以下「被告中曽根善江」という。)

右両名訴訟代理人弁護士

丸山裕司

稲元富保

東京都渋谷区渋谷一丁目二三番二六号

平成八年(ワ)第二一七九〇号事件被告

平成九年(ワ)第一七六六四号事件原告

平成九年(ワ)第一七六六五号事件原告

株式会社ラブラドールリトリーバー

(以下「被告会社」という。)

右代表者代表取締役

粂野曻

右訴訟代理人弁護士

馬場恒雄

中村智廣

三原研自

右訴訟復代理人弁護士

田中史郎

前橋市荒牧町一三番九〇号

平成八年(ワ)第二二四二八号事件被告

LRこと

阿久澤肇

(以下「被告阿久澤」という。)

右訴訟代理人弁護士

高橋勝男

主文

一  原告中曽根信一の請求をいずれも棄却する。

二  被告会社の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告中曽根信一に生じた費用の二分の一、被告会社に生じた費用の二分の一及び被告阿久澤に生じた費用を原告中曽根信一の負担とし、原告中曽根信一に生じたその余の費用、被告会社に生じたその余の費用及び被告中曽根善江に生じた費用を被告会社の負担とする。

事実

第一  請求

(平成八年(ワ)第二一七九〇号事件)

一  被告会社は、別紙被告標章目録記載(一)の標章(以下「被告標章(一)」という。)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示してはならない。

二  被告会社は、被服、帽子及び履物に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に被告標章(一)、別紙被告標章目録記載(二)の標章(以下「被告標章(二)」という。)又は別紙被告標章目録記載(三)の標章(以下「被告標章(三)」という。)を付したものを展示し、頒布してはならない。

三  被告会社は、被告標章(一)を、別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店及び営業所の看板、テントに使用してはならない。

四  被告会社は、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器、包装袋、カタログその他の広告、定価表及び取引書類を廃棄せよ。

五  被告会社は、別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店、営業所の看板、テントから被告標章(一)を抹消せよ。

六  被告会社は、被告標章(一)を押印するための印判を廃棄せよ。

七  被告会社は、原告中曽根信一に対し、金四六〇〇万円及び内金三六〇〇万円に対する平成八年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(平成八年(ワ)第二二四二八号事件)

一  被告阿久澤は、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示してはならない。

二  被告阿久澤は、前橋市千代田町四丁目三番四号所在の店舗の看板、ショゥゥインドウに被告標章(一)を付してはならない。

三  被告阿久澤は、前橋市千代田町四丁目三番四号所在の店舗の看板、ショウウインドウから被告標章(一)を抹消せよ。

(平成九年(ワ)第一七六六四号事件)

原告中曽根信一及び被告中曽根善江は、被告会社に対し、連帯して金七九二二万〇三三七円及びこれに対する平成九年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(平成九年(ワ)第一七六六五号事件)

原告中曽根信一は、被告会社に対し、別紙商標権目録記載の商標権の移転登録手続をせよ。

第二  当事者の主張

(平成八年(ワ)第二一七九〇号事件)

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告中曽根信一は、被告会社設立当時、被告会社の取締役であり、その後、代表取締役になったが、平成七年九月、代表取締役を解任され、同年一〇月、被告会社の取締役を辞任し、被告会社とは別に、別紙商標権目録記載の登録商標(以下、別紙商標権目録記載の商標権を「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を付した衣料品等の販売を行っているものである。被告中曽根善江(旧姓粂野)は、原告中曽根信一の妻である。

(二) 被告会社は、昭和六二年五月一一日に設立された衣料品の販売、損害保険代理業等を目的とする会社であり、当初の商号は有限会社ツインズであったが、平成元年一二月一〇日、有限会社ラブラドールリトリーバーに商号変更し、平成六年一〇月五日、株式会社に組織変更した。

被告会社代表取締役の粂野曻は、被告中曽根善江の父であり、粂野曻とその妻粂野千代子との間の子は、被告中曽根善江とその兄の粂野秀夫(長男)、粂野信夫(次男)である。粂野曻は、不動産の仲介、売買等を主たる目的とする有限会社日東不動産の代表取締役として不動産業にも従事している。

2  本件商標権の帰属

原告中曽根信一は、本件商標権を有している。

3  被告会社の行為

被告会社は、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示している。

被告会社は、被服、帽子及び履物に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に被告標章(一)、(二)又は(三)を付したものを展示し、これを頒布している。

被告会社は、被告標章(一)を、別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店及び営業所の看板、テントに使用している。

被告会社は、被告標章(一)を取引書類等に付するために印判を用いている。

4  本件商標と被告標章の対比

(一) 被告標章(一)は、本件商標と同一である。

(二) 被告標章(二)は、本件商標を構成している「Labrador Retriever」の文字を大文字にしたものであり、「ラブラドールリトリーバー」の称呼を生じるところ、本件商標も「ラブラドールリトリーバー」の称呼を生じるので、被告標章(二)と本件商標は、称呼が同一であり、類似する。

(三) 被告標章(三)は、その文字のとおり「ラブラドールリトリーバー」の称呼を生じるところ、本件商標も「ラブラドールリトリーバー」の称呼を生じるので、被告標章(三)と本件商標は、称呼が同一であり、類似する。

5  本件商標権の指定商品

被服、帽子及び履物は、本件商標権の指定商品に該当する。

6  本件商標権の侵害

(一) 被告会社が、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示する行為は、商標法二条三項二号により、被告標章(一)を被服、帽子又は履物に使用したことに当たり、本件商標権を侵害する。

(二) 被告会社が、被服、帽子及び履物に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に被告標章(一)を付したものを展示し、これを頒布する行為並びに被告会社が、被告標章(一)を、別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店及び営業所の看板、テントに使用する行為は、商標法二条三項七号により、被告標章(一)を被服、帽子又は履物に使用したことに当たり、本件商標権を侵害する。

(三) 被告会社が、被服、帽子及び履物に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に被告標章(二)又は(三)を付したものを展示し、これを頒布する行為は、商標法二条三項七号により、被告標章(二)又は(三)を被服、帽子又は履物に使用したことに当たり、本件商標権を侵害するものとみなされる。

7  損害

(一)(1) 被告会社は、平成七年一一月以降、被告標章(一)、(二)を右3のとおり使用して営業を行い、毎月の売上げは三〇〇〇万円以上であり、これまでの売上げの合計は三億六〇〇〇万円以上である。

(2) 被告会社の純利益は売上げの一五パーセント以上であるから、被告会社がこれまでに得た純利益の額は五四〇〇万円以上であり、右五四〇〇万円は、原告中曽根信一が受けた損害の額と推定される。原告中曽根信一は、被告会社に対し、右五四〇〇万円の一部である三六〇〇万円を請求する。

(3) 本件商標の使用料率は売上げの一〇パーセントであるから、使用料相当額は、三六〇〇万円以上であり、右三六〇〇万円は、原告中曽根信一が受けた損害の額とみなされる。

(二) 原告中曽根信一は、本訴の提起及び訴訟の追行を訴訟代理人に委任し、着手金及び報酬金として合計一〇〇〇万円を支払うことを約した。

(三) したがって、原告中曽根信一の損害は、右(一)(2)又は(3)の三六〇〇万円と右(二)の一〇〇〇万円の合計四六〇〇万円である。

8  よって、原告中曽根信一は、被告会社に対し、本件商標権に基づき、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋の譲渡、引渡し、譲渡又は引渡しのための展示の差止め、被服、帽子及び履物に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に被告標章(一)、(二)又は(三)を付したものの展示、頒布の差止め、被告標章(一)を別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店及び営業所の看板、テントに使用することの差止めを求めるとともに、商標法三六条二項の侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為として、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器、包装袋、カタログその他の広告、定価表及び取引書類の廃棄、別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店、営業所の看板、テントからの被告標章(一)の抹消、被告標章(一)を押印するための印判の廃棄を求め、不法行為による損害賠償として、金四六〇〇万円及び内金三六〇〇万円に対する不法行為の後である平成八年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者)の事実は認める。

2  同2(本件商標権の帰属)の事実は否認する。

被告会社が本件商標権を有する。その理由は、後記平成九年(ワ)第一七六六五号事件の請求原因1記載のとおりである。

3  同3(被告会社の行為)の事実は認める。

4  同4(本件商標と被告標章の対比)の主張は認める。

5  同5(本件商標権の指定商品)の主張は争う。

6  同6(本件商標権の侵害)の主張は争う。

被告会社は、被告標章(二)及び(三)を商標として使用したことはない。

7  同7(損害)の事実は否認し、主張は争う。

三  抗弁

1  契約に基づく本件商標の使用

(一)(1) 原告中曽根信一と被告会社は、平成二年一月三〇日の本件商標の登録時に、対価を無償とし、存続期間を、被告会社が「株式会社ラブラドールリトリーバー」の商号で存在し、かつ被告会社が本件商標等を使用する意思を有し、その必要のある期間とする明示の専用使用権設定契約、独占的通常使用権許諾契約又は非独占的通常使用権許諾契約を締結した。

(2)〈1〉 原告中曽根信一と被告会社との間には、平成二年一月三〇日の本件商標の登録時に、対価を無償とし、存続期間を、被告会社が「株式会社ラブラドールリトリーバー」の商号で存在し、かつ被告会社が本件商標等を使用する意思を有し、その必要のある期間とする黙示の専用使用権設定契約、独占的通常使用権許諾契約又は非独占的通常使用権許諾契約が成立した。

〈2〉 右の黙示の専用使用権設定契約、独占的通常使用権許諾契約又は非独占的通常使用権許諾契約の成立を基礎づける事実は、次のとおりである。

ア 本件商標のデザインは、原告中曽根信一の創作に係るものではなく、被告会社の取締役であった粂野秀夫、粂野信夫、原告中曽根信一、被告中曽根善江、粂野千代子らの合作により、被告会社が新たに衣料品の販売を行う際のロゴとして考案されたものであり、被告会社の取締役の共有であると認識されており、原告中曽根信一が独占するとは認識されていなかった。

イ 本件商標は、緊急に登録をして権利を確保するために取りあえず原告中曽根信一名義で出願し、登録されたものである。

ウ 本件商標の出願に当たっての調査及び出願の費用は、すべて被告会社が負担した。

エ 被告会社は、平成五年、「Labrador Retriever」という文字を含む商標を商標法施行令一条別表による区分第一八類及び第二五類につき出願したが、その際、原告中曽根信一は、被告会社名義で出願することに同意し、何らの異議を述べなかった。

オ 原告中曽根信一は、本件商標の出願から平成七年一一月二〇日の仮処分申立時まで、本件商標を個人的に自己の権利として使用したことはない。本件商標は、専ら被告会社が使用し、本件商標を付した商品の製造販売は、すべて被告会社の費用負担の下に行われていた。本件商標を付した商品は、被告会社のオリジナル商品として販売され、本件商標は、被告会社に帰属するものとして、顧客、取引先等に認識されていた。

カ 被告会社の商号が「有限会社ツインズ」から「有限会社ラブラドールリトリーバー」に変更されたのも、本件商標が被告会社のものであると認識されていたからである。

キ 被告会社は、原告中曽根信一に対し、本件商標の使用料を支払ったことはなく、原告中曽根信一からその支払を請求されたこともない。

(二) 被告会社による被告標章(一)、(二)又は(三)の使用は、右(一)(1)又は(2)〈1〉のいずれかの契約に基づくものである。

2  権利濫用

前記1(一)(2)〈2〉アないしキの事実に照らすと、原告中曽根信一が被告会社に対して本件商標権を行使するのは権利濫用である。

四  抗弁に対する認否

1(一)(1) 抗弁1(一)(1)の事実のうち、平成二年一月三〇日、本件商標が登録されたことは認め、その余は否認する。

(2)〈1〉 同1(一)(2)〈1〉の事実のうち、平成二年一月三〇日、本件商標が登録されたことは認め、その余は否認する。

〈2〉ア 同1(一)(2)〈2〉アの事実は否認する。

本件商標の原形となる商標は、被告会社の設立前に、原告中曽根信一が、個人として行う衣料品の販売に使用するため創作したものである。本件商標が出願されたとき、被告会社が衣料品の販売を行う予定はなかった。本件商標の犬の図形の向きが左向きになっているのは、粂野千代子の助言によるものであるが、その程度のことでは、本件商標が被告会社の取締役の合作であるとはいえず、本件商標の創作に原告中曽根信一以外の被告会社の取締役はかかわらなかった。

イ  同1(一)(2)〈2〉イの事実のうち、原告中曽根信一の名義で本件商標が出願され登録されたことは認め、その余は否認する。

出願を急ぐことと原告中曽根信一名義で出願することは関係がない。

ウ  同1(一)(2)〈2〉ウの事実は否認する。

本件商標の出願の費用は、被告会社の計算において支払われているが、本件商標の出願人及び衣料品販売の主体は原告中曽根信一であり、被告会社がそれを人的、物的に援助しているにすぎない。

エ  同1(一)(2)〈2〉エの事実のうち、被告会社が、平成五年、「Labrador Retriever」という文字を含む商標を第一八類及び第二五類につき出願したことは認め、その余は否認する。

右出願の委任状には、「有限会社ラブラドールリトリーバー代表取締役中曽根信一」という記名印と、被告会社の代表取締役印が押印されているが、代表取締役印を保管、管理していたのは粂野昇であるから、原告中曽根信一は、右出願の事実を、仮処分事件で被告会社が主張するまで知らず、異議を述べることができなかった。

オ  同1(一)(2)〈2〉オの事実のうち、平成七年一一月二〇日、仮処分が申し立てられたことは認め、その余は否認する。

需要者の間においては、本件商標を付した商品の出所は、被告会社ではなく原告中曽根信一と認識され、被告会社は原告中曽根信一が経営し、実際の販売業務を行っている会社にすぎないと認識されている。

カ  同1(一)(2)〈2〉カの事実のうち、被告会社の商号が「有限会社ツインズ」から「有限会社ラブラドールリトリーバー」に変更されたことは認め、その余は否認する。

キ  同1(一)(2)〈2〉キの事実は認める。

原告中曽根信一は被告会社に専用使用権を設定し又は通常使用権を許諾したことはないから、被告会社に対して使用料を請求する理由はない。

(二) 抗弁1(二)の主張は争う。

(三) 原告中曽根信一が被告会社の代表取締役であった当時、被告会社の店舗において本件商標を付した商品の販売が行われていたが、このような被告会社の行為を正当化するために、原告中曽根信一と被告会社の間に黙示の使用許諾契約の成立を認めるべき理由はない。

(四) 商標権の存続期間は一〇年であり、更新をしなければ終了するところ、契約の存続期間が被告会社の必要とする期間であるとすれば、商標権者は不要になった商標権について更新義務を負うことになるが、このような更新義務を課する契約の成立を黙示の意思表示により認めるのは、当事者の合理的意思の解釈を超え、商標権の存続期間を規定する商標法の趣旨に合致しない。被告会社が「株式会社ラブラドールリトリーバー」の商号で存在する間というのは、具体的にいかなる期間か不明であり、このような不明確な内容の黙示の契約の成立を認めるのは社会通念に合致しない。

衣料品は、製造者の個性等が反映した商品であり、衣料品の商標のイメージには、品質だけでなく販売方法も影響する。原告中曽根信一は、被告会社の代表取締役であった当時から現在に至るまで、品質、販売方法の双方について、ブランドイメージを育成、維持してきた。本件商標のブランドイメージは、原告中曽根信一の個性等と不可分である。本件商標を付した商品は、被告会社の商品としてではなく、原告中曽根信一個人の個性等を反映した商品として認識されており、原告中曽根信一イコールラブラドールリトリーバーであるという認識が需要者間に定着している。そのため、原告中曽根信一が被告会社に在籍していた当時の取引先の多くは、原告中曽根信一が被告会社の取締役を辞任してからは、被告会社ではなく原告中曽根信一と取引している。これらの事実に、〈1〉本件商標は、原告中曽根信一が、個人の営業に使用する目的で創作したものであること、〈2〉原告中曽根信一は、その個性等を表した衣料品等の販売を行うことを目的として本件商標の出願を行い、本件商標は登録されたこと、〈3〉原告中曽根信一は被告会社に対して使用料を請求したことはなく、被告会社は原告中曽根信一に対し、これまで使用料を支払っていないことの各事実を合わせ考えると、原告中曽根信一と被告会社との間に黙示の使用許諾契約が認められるとしても、その存続期間は、原告中曽根信一が被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができる期間と解するのが、事実関係に最も合致する。

2 抗弁2の主張は争う。

商標権の行使が権利濫用とされるのは、権利取得の段階において不正な目的が存在する場合であるところ、本件においては、原告中曽根信一が本件商標権を取得した過程において何ら不正な目的は存在しないから、本件において権利濫用が成立する余地はない。

五  再抗弁(抗弁1に対して)

1  期間満了による使用許諾契約の終了

原告中曽根信一と被告会社との間に本件商標について使用許諾契約が成立したとしても、その存続期間は、右四1(四)のとおり、原告中曽根信一が被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができる期間であるところ、原告中曽根信一は、平成七年九月二一日に、粂野曻から、被告会社の代表取締役の解任を通知されて、出社を拒否され、同日以後、被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができなくなったから、右使用許諾契約は、同日、期間満了により終了した。

2  解除の意思表示による使用許諾契約の終了

(一) 使用権者が許諾の対象である商標権を否定することは契約上の信義則に違反すること、出所の同一性が確保されることを前提として商標の使用許諾を認めている商標法の趣旨、商標法五三条は、使用権者が商標権者の商品と出所の混同を生じさせることを取消事由としていることからすると、抗弁1の使用許諾契約においては、使用権者が商標権者の商標権を否定する場合、使用権者が商標権者の商標の使用に損害を与える行為を行った場合、使用権者が商標権者の商品と出所の混同を生じさせる行為を行った場合、使用権者が商標のブランドイメージを損なう行為をした場合、商標権者と使用権者の信頼関係が破壊された場合などには、商標権者は使用許諾契約を解除することができる旨の合意があったとするのが当事者の合理的意思解釈に合致する。

(二)(1)〈1〉 被告会社は、仮処分事件、その即時抗告事件、本訴において、一貫して被告会社が本件商標の商標権者であると主張している。

〈2〉 被告会社は、「ラブラドールリトリーバーは下記の3店舗です。」、「ラブラドールリトリーバーは、都内で3店舗の展開しております。弊社のオリジナル商品は、一部例外を除き、弊社のみでしか購入できません。ご注意下さい。」と記載された、原告中曽根信一の商品を偽物であると認識させるようなチラシを配布している。

被告会社は、取引先と交わす「取引に関する確認書」には、「右記ロゴ、マーク等を、有うする商品については、貴社と取引し、他社とは取引致しません(貴社以外の同様な商品による市場の混乱を避る為)」という条項を記載している。

〈3〉 被告会社は、原告中曽根信一の店舗は本件商標を付した偽物を販売している店であるなどと顧客に流布している。

被告会社の指示により、京都の被告会社の卸先の店舗には、「当店のラブラドールリトリーバーの商品は、東京のラブラドールリトリーバーと同じ商品であり、類似品にご注意ください。」という、原告中曽根信一の扱う商品が偽物であるかのような貼紙が出されている。

(2) 右〈1〉ないし〈3〉の行為は、使用権者が商標権者の商標権を否定する場合、使用権者が商標権者の商標の使用に損害を与える行為を行った場合又は使用権者が商標権者の商品と出所の混同を生じさせる行為を行った場合に当たり、使用許諾契約の解除を認めるべき事由となる。

(三)(1)〈1〉 被告会社は、本件商標のもつブランドイメージを変更した商品を扱う旨流布した。

〈2〉 被告会社は、本件商標を付した商品をファッションビル(多数の衣料品店が入ったビル)の一角の販売店に販売し、数年前の商品をリピートした商品を販売している。

〈3〉 被告会社は、色、サイズ、型が異なる商品をまとめて販売するいわゆるアソート売りを行っている。

〈4〉 被告会社は、平成九年一月四日から同月一五日まで、セールを行い、段ボール箱を店頭に山積みにする販売形態で、投売りといえる低価格で商品を販売した。

被告会社は、渋谷本店店頭及び神宮前店店頭において、平成九年五月、フリーマーケットと称して本件商標を付したオリジナル商品を投売りといえる低価格で販売し、同年一〇月一三日、一一月一三日にもフリーマーケットと称する安売りを行った。

被告会社は、平成一〇年一月三日から同月一五日まで、「一〇周年記念」と称するセールを行った。右期間中は、店頭において宣伝のチラシを配布し、店頭に段ボール箱を山積みにするという販売形態で、投売りといえる低価格で商品を販売した。

〈5〉 被告会社は、本件商標を付した商品がどのような業者によって、どのような店舗において、どのような形態で販売されているかを把握していない。

〈6〉 被告会社は、いわゆる同性愛者で組織された任意クラブのスポンサーとなり、同クラブを通じて、本件商標に類似する商標を付した商品の宣伝広告及び販売活動を行っている。

(2) 右〈1〉ないし〈6〉の行為は、使用権者が商標のブランドイメージを損なう行為をした場合に当たり、使用許諾契約の解除を認めるべき事由となる。

(四)(1) 原告中曽根信一は、平成七年九月二一日、粂野曻から、被告会社の代表取締役の解任を通知されて、出社を拒否され、同日以後、被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができなくなった。

(2) 右(1)は、商標権者と使用権者の信頼関係が破壊された場合に当たり、使用許諾契約の解除を認めるべき事由となる。

(五)(1) 原告中曽根信一は、被告会社に対し、平成七年一〇月二四日、本件商標の使用中止を申し入れ、使用許諾契約の解除の意思表示を行った。

(2) 原告中曽根信一は、仮処分事件における平成七年一二月二〇日付け準備書面において、被告会社の使用権が終了した旨の意思表示を行い、右意思表示は、そのころ被告会社に到達した。

(3) 原告中曽根信一は、即時抗告事件における平成八年八月一日付け準備書面(二)において、使用許諾契約を解除する旨の意思表示を行い、右意思表示は、そのころ被告会社に到達した。

(4) 原告中曽根信一は、被告会社に対し、内容証明郵便をもって、使用許諾契約を解除することを通知し、右内容証明郵便は、平成一〇年五月二二日、被告会社に到達した。

(六) したがって、原告中曽根信一と被告会社との間の使用許諾契約は、解除によって終了した。

六  再抗弁に対する認否

1(一)  再抗弁1のうち、原告中曽根信一が、平成七年九月二一日に、粂野曻から、被告会社の代表取締役の解任を通知されて、出社を拒否され、同日以後、被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができなくなった事実は認め、主張は争う。

2(一)  同2(一)の主張は争う。

(二)(1)〈1〉 同2(二)(1)〈1〉の事実は認める。

〈2〉 同2(二)(1)〈2〉の事実は認める。

〈3〉 同2(二)(1)〈3〉の事実のうち、京都の被告会社の卸先の店舗に、「当店のラブラドールリトリーバーの商品は、東京のラブラドールリトリーバーと同じ商品であり、類似品にご注意ください。」という貼紙が出されていることは不知であり、その余は否認し、主張は争う。

(2) 同2(二)(2)の主張は争う。

(三)(1)〈1〉 同2(三)(1)〈1〉の事実は否認する。

〈2〉 同2(三)(1)〈2〉の事実のうち、被告会社が、本件商標を付した商品をファッションビルの一角の販売店に販売していることは認め、その余は否認し、主張は争う。

〈3〉 同2(三)(1)〈3〉の事実は認める。

アソート売りとは、卸先に多様な商品をバランスよく購入してもらい、売れ残り等を防ぐための販売方法であり、原告中曽根信一が被告会社の代表取締役であった当時から行われてきており、中小のアパレル会社ではよく見られる販売方法である。

〈4〉 同2(三)(1)〈4〉の事実のうち、被告会社が、平成九年一月四日から同月一五日までセールを行ったこと、同年五月、フリーマーケットと称するセールを行ったこと、平成一〇年一月三日から同月一五日までセールを行ったことは認め、その余は否認する。

平成九年一月四日から同月一五日までのセール及び平成一〇年一月三日から同月一五日までのセールは、新春の初売りセールであり、有名デパートや有名ブランドのブティックでも行うようなものである。被告会社において、本件商標を付したオリジナル商品のセールは、現在、年に一度の初売りセールだけである。セールのときに、店頭に段ボール箱を積んだことがあったが、それは、すぐに商品を店内に供給することができるように置いておいたにすぎない。セールの値引きも、平常価格の三〇ないし四〇パーセント引きが中心であり、他店と比較しても妥当な金額である。平成九年五月のフリーマーケットと称するセールは、渋谷本店において、輸入品だけを対象に行ったものである。

〈5〉 同2(三)(1)〈5〉の事実は否認する。

〈6〉 同2(三)(1)〈6〉の事実は否認する。

被告会社は、エイズ撲滅に協力する趣旨で同性愛者の団体に物品を寄付したところ、被告会社の意に反して被告会社の名を不適切な形で右団体の宣伝に利用されたため、右団体の代表者に苦情を申し入れ、謝罪を受けた。

(2) 同2(三)(2)の主張は争う。

(四)(1) 同2(四)(1)の事実は認める。

(2) 同2(四)(2)の主張は争う。

(五) 同2(五)(1)ないし(4)の事実は認める。

(六) 同2(六)の主張は争う。

(平成八年(ワ)第二二四二八号事件)

一  請求原因

1  当事者

(一) 前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の請求原因1(一)と同じ。

(二) 被告阿久澤は、平成八年一月ころから、前橋市千代田町四丁目三番四号において、「LR」という名称の店舗(以下「被告阿久澤店舗」という。)を開設し、業として衣料品、履物等の販売を行っている。

2  本件商標権の帰属

前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の請求原因2と同じ。

3  被告阿久澤の行為

被告阿久澤は、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示している。

被告阿久澤は、被告阿久澤店舗の看板、ショウウィンドウに被告標章(一)を付している。

4  本件商標と被告標章の対比

前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の請求原因4(一)と同じ。

5  本件商標権の指定商品

前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の請求原因5と同じ。

6  本件商標権の侵害

(一) 被告阿久澤が、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示する行為は、商標法二条三項二号により、被告標章(一)を被服、帽子又は履物に使用したことに当たり、本件商標権を侵害する。

(二) 被告阿久澤が、被告標章(一)を、被告阿久澤店舗の看板、ショウウィンドウに付して使用する行為は、商標法二条三項七号により、被告標章(一)を被服、帽子又は履物に使用したことに当たり、本件商標権を侵害する。

7  よって、原告中曽根信一は、被告阿久澤に対し、本件商標権に基づき、被告標章(一)を付した被服、帽子及び履物並びにこれらの包装紙、包装容器及び包装袋の譲渡、引渡し、譲渡又は引渡しのための展示の差止め、被告標章(一)を被告阿久澤店舗の看板、ショウウィンドウに付することの差止めを求めるとともに、商標法三六条二項の侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為として、被告阿久澤店舗の看板、ショウウィンドウからの被告標章(一)の抹消を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(当事者)(一)の事実は不知。

(二)  同1(二)の事実のうち、平成八年一月ころからという部分は否認し、その余は認める。被告阿久澤店舗を開設したのは、平成八年二月である。

2  同2(本件商標権の帰属)の事実は否認する。

3  同3(被告阿久澤の行為)の事実のうち、包装紙については否認し、その余は認める。

4  同4(本件商標と被告標章の対比)の主張は認める。

5  同5(本件商標権の指定商品)の主張は争う。

6  同6(本件商標権の侵害)(一)、(二)の主張は争う。

三  抗弁

1(一)  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の抗弁1と同じ。

(二)  被告阿久澤は、被告標章(一)を付した被服、帽子、履物及び包装容器(包装箱)を被告会社から仕入れて販売している。

被告阿久澤は、被告標章(一)を付した包装袋を被告会社から仕入れ、これに顧客が購入した商品を入れて顧客に渡している。

被告阿久澤は、被告会社以外から商品を仕入れていない。

(三)  したがって、請求原因3の行為は、本件商標権を侵害しない。

2  右1の事実に照らすと、原告中曽根信一が被告阿久澤に対して本件商標権を行使するのは、権利濫用である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)に対する認否は、前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の抗弁1に対する認否と同じ。

(二)  同1(二)の事実は不知。

(二) 同1(三)の主張は争う。

2  抗弁2に対する認否は、前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の抗弁2に対する認否と同じ。

五  再抗弁(抗弁1(一)に対して)

1  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の再抗弁1と同じ。

2  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の再抗弁2と同じ。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1、2の事実は不知であり、主張は争う。

(平成九年(ワ)第一七六六四号事件)

一  請求原因

1(一)  不正競争防止法二条一項一号

(1) 本件商標は、被告会社の商品表示として広く知られていた。

(2) 原告中曽根信一は、被告会社の取締役を辞任する平成七年一〇月二四日の一か月前ころから、被告会社に秘して、自己の用に供するために、被告会社の所有する織ネームやボタンを流用し、被告会社の取引先である株式会社MOMOYAに、本件商標が付された被告会社が販売していた商品を発注して製造させた。原告中曽根信一は、被告会社の取締役を辞任した後、右の商品を、別紙卸先一覧表記載の被告会社の卸先に販売し、被告会社の商品との混同を生じさせた。

(3) 右(2)の行為により、被告会社は、営業上の利益を侵害された。

(二)  一般不法行為

原告中曽根信一は、右(一)(2)の行為を行うほか、被告会社の仕入先に対して「株式会社ラブラドールリトリーバーはつぶれるので、もう商品は卸すな。」と虚偽の事実を告げ、被告会社が仕入れをすることができないように画策し、被告会社の卸先に対しては、「株式会社ラブラドールリトリーバーはもう商品を仕入れて販売することはできない。代わって私が販売する。」と告げて被告会社の販売を妨害した。

2  被告中曽根善江は、原告中曽根信一と共謀して、右1(一)(2)、(二)の行為に参画したものであり、右行為を行うにつき、原告中曽根信一及び被告中曽根善江には故意があった。

3(一)  右1(一)(2)、(二)の行為により、被告会社は、卸先を奪われ、卸先に対する販売により得べかりし利益を喪失した。

(二)  右卸先に対する被告会社の売上げは、平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までの一年間に二億二七八七万四四七四円であり、利益率は二七・五パーセントであるから、一年間の利益の額は六二六六万五四八〇円であり、一か月当たりの利益の額は、その一二分の一に当たる五二二万二一二三円である。平成七年一〇月一日から平成九年四月三〇日までの一九か月分の得べかりし利益の額は、右五二二万二一二三円の一九か月分の九九二二万〇三三七円であり、これが損害の額である。

4  よって、被告会社は、原告中曽根信一及び被告中曽根善江に対し、不正競争防止法四条に基づく損害賠償又は不法行為による損害賠償として、右九九二二万〇三三七円の一部である七九二二万〇三三七円及びこれに対する不正競争行為及び不法行為の後である平成九年一〇月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)(1) 請求原因1(一)(1)の事実は否認する。

本件商標は、商標権者である原告中曽根信一の商品表示である。

(2) 同1(一)(2)の事実のうち、原告中曽根信一が、平成七年一〇月二四日に被告会社の取締役を辞任したことは認め、その余は否認する。

(3) 同1(一)(3)の事実は否認する。

(二) 同1(二)の事実は否認する。

2 同2の事実は否認する。

3(一) 同3(一)の事実は否認する。

(二) 同3(二)の事実は否認し、主張は争う。

(平成九年(ワ)第一七六六五号事件)

一  請求原因

1  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の抗弁1(一)(2)〈2〉アないしキの事実によると、本件商標の実質的な権利者は被告会社であり、原告中曽根信一は、登録上の名義人にすぎないから、被告会社は、原告中曽根信一に対し、本件商標の実質的な権利に基づき、本件商標権の移転登録手続を求めることができる。

2  仮に、原告中曽根信一が本件商標の商標権者であったとしても、原告中曽根信一は、自己のためではなく、被告会社のために、被告会社の費用により、原告中曽根信一の名義で商標登録出願したのであるから、右出願は事務管理に当たり、原告中曽根信一は、被告会社に対し、本件商標権を移転する義務がある。

3  よって、被告会社は、原告中曽根信一に対し、本件商標権の移転登録手続を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の各主張は争う。

理由

(平成八年(ワ)第二一七九〇号事件)

一  請求原因1(当事者)の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2(本件商標権の帰属)について判断する。

商標権は、設定の登録によって発生する権利であるから、商標登録出願をして、登録を受けた者に帰属する。

甲第一、第二号証によると、本件商標権は、原告中曽根信一が商標登録出願をして、登録を受けたものと認められるから、同原告に帰属し、平成九年(ワ)第一七六六五号事件の請求原因1記載の事実の有無が、本件商標権の帰属を左右することはない。

三  請求原因3(被告会社の行為)の事実は、当事者間に争いがない。

四  請求原因4(本件商標と被告標章の対比)は、当事者間に争いがない。

五  請求原因5(本件商標権の指定商品)について判断する。

本件商標権の商品の区分は、平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令一条別表による区分の第一七類(以下、平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令一条別表を「旧別表」といい、旧別表による区分を「旧・・・類」と表示する。)であり、旧別表旧第一七類の商品は、「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他の類に属するものを除く。)寝具類(寝台を除く。)」である。本件商標の指定商品は、「被服、その他本類に属する商品」であるから、被服その他旧第一七類に属する商品はすべて本件商標の指定商品に該当する。

帽子は、右「被服」に含まれるから、本件商標の指定商品である。

履物は、旧第二二類に属する商品であり、旧第一七類に属する商品ではないから、本件商標の指定商品に該当しない。また、右指定商品と類似しない。

六  請求原因6(本件商標権の侵害)のうち、被告会社の行為が、被告標章の使用に当たるかどうかについて判断する。

右五のとおり、履物は本件商標の指定商品ではなく、右指定商品と類似しないので、被服又は帽子につき、被告会社の行為が被告標章の使用に当たるかどうかについて判断する。

被告会社が、被告標章(一)を付した被服又は帽子を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示すること、被服又は帽子が現実に包装されている包装紙、包装容器又は包装袋で、被告標章(一)が付されているものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示することは、商標法二条三項二号により、被告標章(一)を被服又は帽子に使用したことに当たる。しかし、被服又は帽子が現実に包装されていない包装紙、包装容器又は包装袋で、被告標章(一)を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示することは、被服又は帽子に被告標章(一)を使用したことに当たらない。

被告会社が、被服又は帽子に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に被告標章(一)、(二)又は(三)を付したものを展示し、これを頒布することは、商標法二条三項七号により、被服又は帽子に被告標章(一)、(二)又は(三)を使用したことに当たる。乙第三四号証及び弁論の全趣旨によると、被告会社は、別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店及び営業所において、主に被服及び帽子を展示、販売しているものと認められるから、被告会社が、被告標章(一)を、別紙被告所在地目録記載の被告会社の本店及び営業所の看板、テントに使用することは、被服又は帽子に関する広告に被告標章(一)を付して展示する行為であると認められ、商標法二条三項七号により、被服又は帽子に被告標章(一)を使用したことに当たる。

七1  そこで、被告会社が被服又は帽子に被告標章(一)、(二)又は(三)を使用することが本件商標権の侵害に当たるかどうかを判断するために、抗弁1、再抗弁1、2について検討する。

2  当事者間に争いのない請求原因1の事実、請求原因3の事実、請求原因4の対比、抗弁1の事実のうち原告中曽根信一が認めている事実及び再抗弁1、2の各事実のうち被告会社が認めている事実と甲第一号証ないし第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証、第二〇号証ないし第二二号証の各一、二、第二三号証ないし第二八号証、第二九号証の一ないし四、第三〇号証の一ないし三、第三一号証の一、二、第三二号証、第三三号証の一、二、第三四号証、第三五号証の一ないし四、第三六号証、第三七号証の一、二、第三八号証、第三九号証、第四〇号証の一、二、第四一号証ないし第四四号証、第四五号証の一ないし一九、第四六号証ないし第五八号証、第六一号証の一、二、第六二号証の一ないし三、第六三号証、第六四号証の一、二、第六五号証、第六七号証、乙第一号証ないし第四号証、第五号証の一、二、第六号証ないし第一五号証、第一六号証の一ないし六、第一七号証ないし第一九号証、第二四号証ないし第二九号証、第三〇号証の一ないし四、第三一号証ないし第三四号証、第四〇号証、証人川崎義記及び同粂野秀夫の各証言、原告中曽根信一本人尋問及び被告会社代表者尋問の各結果並びに弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。

(一)  原告中曽根信一は、バックドロップという会社で、衣料品の輸入関係の仕事に従事していたが、昭和六一年五月三〇日、同社を退職し、同年六月三日、株式会社ビギに、カジュアルウエアのデザイナーとして入社し、洋服の企画、生産に関する仕事に従事していた。

(二)  原告中曽根信一は、将来、衣料品店を経営することを望んでおり、そのときに使う標章を作成しようと思い、昭和六一年七月ころ、株式会社ビギに勤めていた川崎義記に対し、横を向いている犬の図形と「Labrador Retriever」の文字が重なった標章のラフスケッチを示し、本件商標の原形となる標章のデザインを依頼した。川崎は、何点かのデザインを作成して、書体の選択、文字や図形のバランス等を原告中曽根信一と協議した。そして、原告中曽根信一は、本件商標と「Labrador Retriever」の文字及び犬の形態が同じであり、犬の向きが右向きである点のみが異なる標章(以下「原形標章」という。)を最終案とすることにした。

原告中曽根信一は、同年一一月一一日、被告中曽根善江(旧姓粂野)と婚姻した。粂野曻(以下「曻」という。)は、被告中曽根善江の父であり、曻とその妻粂野千代子(以下「千代子」という。)との間の子は、被告中曽根善江とその兄の粂野秀夫(長男。以下「秀夫」という。)、粂野信夫(次男。以下「信夫」という。)であった。曻は、不動産の仲介、売買等を主たる目的とする有限会社日東不動産(以下「日東不動産」という。)の代表取締役として不動産業に従事していた。

(三)  秀夫、信夫は、原告中曽根信一が原形標章を作ったことを知り、昭和六二年三月ころ、自分達の標章も作りたいと考え、Wの文字に似たデザインを作成した。原告中曽根信一は、それを、株式会社ビギに勤めていたアダムズ君江に見せ、アダムズ君江は、秀夫と信夫が双子であったことから、人が二人向かい合ったイメージを込めてそのデザインに手を加え、原告中曽根信一を通じて、秀夫と信夫にその修正したデザインを示した。

(四)  昭和六二年五月一一日、秀夫、信夫が保険関係の事業を主として行うために、曻の援助により、被告会社が設立された。設立当時、被告会社の商号は、秀夫と信夫が双子であったことにちなんで「有限会社ツインズ」とされ、その社員、取締役は、いずれも秀夫、曻、原告中曽根信一、信夫、千代子の五名であり、秀夫が代表取締役であった。本店所在地は、同東不動産の所有するマンションの一室であった。被告会社は、設立当初は、損害保険に関する業務を行っていた。

同年六月ころ、右(三)の修正されたデザインを印刷した、被告会社の代表取締役秀夫、取締役信夫、取締役原告中曽根信一名義の名刺が、各一〇〇枚ずつ作成され、その代金一万九五〇〇円は、被告会社が負担した。

(五)  曻は、衣料品店を経営することを望んでいた原告中曽根信一及び被告中曽根善江に対して、同人らが、秀夫、信夫と協力して被告会社の事業として衣料品等の販売を行うことを提案し、原告中曽根信一、被告中曽根善江、秀夫及び信夫は、これに同意した。そして、原告中曽根信一、被告中曽根善江、秀夫、信夫らで、昭和六二年一一月ころ、相談した結果、店の名前を、原告中曽根信一が提案した「ラブラドールリトリバー」とすることとした。

曻、秀夫らは、同月ころ、「Labrador Retriever」という文字からなる商標を登録することができるかどうかの調査を行おうとしたが、その読み方を「ラブラドルレッドリバー」と解していたため、杉浦正知弁理士に対し、「ラブラドルレッドリバー」という商標を登録することができるかどうかの調査を依頼した。杉浦弁理士は、同年一二月二日ころ、旧第一七類に、オーミケンシ株式会社の「LABRADOR ラブラドール」という商標と株式会社そごうの「ラブラド」という商標が登録されていることなどの調査結果を報告した。杉浦弁理士は、右調査の費用二万五四〇〇円(商標調査手数料二万円、原簿公報取寄費用としての手数料四〇〇〇円及び印紙代一四〇〇円の合計二万五四〇〇円)について、宛先を「日東不動産宛 ツインズ 久米野殿」とした請求書を発行した。被告会社は、杉浦弁理士に対し、同月一四日、右調査の費用二万五四〇〇円を支払った。右調査の結果、「Labrador Retriever」という文字のみからなる商標は、旧第一七類に登録することができないが、原形標章のような図形と文字の組合せであれば登録される余地があることが分かり、原告中曽根信一、被告中曽根善江、秀夫らは、図形と文字の組合せによる出願をすることにした。

原告中曽根信一及び被告中曽根善江は、曻の自宅で、原形標章を秀夫、信夫、千代子らに見せたところ、千代子から、犬の向きが右向きであるが、左向きの方がよい旨を指摘され、原告中曽根信一は、この指摘を受け入れ、犬が左向きの本件商標を出願することにした。

原告中曽根信一は、同月二四日、杉浦弁理士を代理人として、本件商標の登録出願をした。原告中曽根信一は、出願に当たり、本件商標の見本を持参して日東不動産の事務所に赴いたが、出願書類の作成、取次ぎには、秀夫も関与した。

杉浦弁理士は、右登録出願の費用五万三一〇〇円(印紙代一万七〇〇〇円、商標見本図面代二五〇〇円及び出願手数料三万三六〇〇円の合計五万三一〇〇円)について、宛先を被告会社とした請求書を発行し、被告会社は、杉浦弁理士に対し、昭和六三年五月二七日、右費用五万三一〇〇円を支払った。

(六)  原告中曽根信一は、実父である中曽根一臣の援助を受け、昭和六二年一二月二八日、米国に赴き、古着、ディスプレイ用品、人形など約二〇〇万円の商品を購入した。

原告中曽根信一は、昭和六三年初めころ、織ネームのトレースを川崎義記に依頼し、本件商標を付した織ネームを株式会社中村織ネームに発注した。原告中曽根信一は、本件商標を付した値札の発注もした。

(七)  原告中曽根信一、被告中曽根善江、曻、秀夫は、昭和六三年初めころから、衣料品店を開店する店舗を探したが、原告中曽根信一は、株式会社ビギの勤務があったことから、実際に不動産業者や現地を回って探したのは、被告中曽根善江と秀夫であった。被告中曽根善江と秀夫は、恵比寿、代官山、渋谷、原宿などで店舗を探し、昭和六三年三月ころ、渋谷区神宮前六丁目二九番二号に、一年間の一時使用という条件の木造二階建ての物件(後に一号店となる。)を見つけ、原告中曽根信一が気に入ったので、右物件で開店することにした。

被告会社は、同年四月二日、不動産業者に対し、右物件についての預り金として一か月の賃料相当の三五万円を支払い、同年七月四日、被告会社を賃借人として、契約期間は一年間で更新は不可、賃料一か月三五万円、礼金七〇万円、敷金四〇〇万円という内容の賃貸借契約を締結し、礼金、敷金を支払つた。預り金の支払などの手続は、秀夫が行った。

(八)  昭和六三年六月二九日、原告中曽根信一が被告会社の代表取締役に就任し、原告中曽根信一と秀夫が被告会社の代表取締役になった。曻は、同日、被告会社の取締役を辞任し、自己の有していた被告会社の持分を原告中曽根信一に譲渡した。

原告中曽根信一は、同月三〇日、株式会社ビギを退職した。

原告中曽根信一は、同年七月三日、米国に赴いて商品の仕入れを行い、その代金六〇〇万円及び旅費は、被告会社が負担した。

中曽根一臣は、同年六月二七日、被告会社に対し、四〇〇万円を送金したが、被告会社は、中曽根一臣に対し、右四〇〇万円を返済していない。日東不動産は、同年七月一日、被告会社に対して六〇〇万円を送金したが、被告会社は、同月二〇日、六〇〇万円を日東不動産に返済した。被告会社は、同月一九日ころ、資金の借入れのため、曻の手配により、日東不動産の取引先であった北海道拓殖銀行西永福支店との間で一〇〇〇万円を限度とする融資契約を締結し、その担保として、中曽根一臣の株券が差し入れられた。

(九)  一号店の開店に向け、原告中曽根信一は、右のとおり、米国へ商品の仕入れに赴いたのを始めとして、商品の仕入れの手配等を行い、千代子は、商品とする衣料品に織ネームや値札を付けたりし、秀夫、信夫も、その他の仕事を行った。店舗の内装工事は、被告会社が曻の知合いの大工に請け負わせ、原告中曽根信一の意見も採り入れて工事が行われ、その代金は、一年の猶予を得た後、被告会社が支払った。

原告中曽根信一は、商品を、自宅、一号店の二階、日東不動産の事務所に保管し、商品の輸送には、被告会社の自動車を使った。商品に付する織ネームや値札の製作代金は、被告会社が支出した。

(一〇)  被告会社は、昭和六三年九月三日、渋谷区神宮前六丁目二九番二号に一号店を開店した。

一号店の商品は、原告中曽根信一が発注した本件商標を付したタートルネックのTシャツ、原告中曽根信一が米国で仕入れたギリシャ製のシャツに本件商標又は「Labrador Retriever」という文字のみの織ネームを縫いつけたもの、カジュアルウエアの古着等に件商標又は「Labrador Retriever」という文字のみの織ネームを縫いつけたもの、スニーカーなどであった。商品は、白無地の袋に本件商標の印を押したものに入れて顧客に渡していた。一号店の売上げは、同月は三八〇万円、同年一〇月及び一一月は各月六〇〇万円以上、一二月は八〇〇万円以上、平成元年一月は一〇〇〇万円以上であり、予想を上回るものであった。

(一一)  一号店は、昭和六三年一二月から平成元年二月にかけて、雑誌に取り上げられた。雑誌nanaの昭和六三年一二月二日号には、一ページ分に、一号店の写真と共に、「ラブラドールリトリーバー」は、同年九月に開店したばかりの輸入品を扱う洋服屋であること、店内には主に米国西海岸から仕入れた洋服が置かれていること、「人間味のある、あたたかいものがやりたかったのでニューヨークではなく西海岸の方を回った」旨の原告中曽根信一の発言などが書かれていた。雑誌oliveの平成元年二月三日号には、オーナーが直接米国から買い付けてきたものばかりが並んでいる店である旨が書かれ、雑誌BE-PALの同月一〇日号には、オーナーが自分の趣味のままに作った店舗であること、商品はベーシックなものが多いがブランドにはこだわっていることなどが書かれ、掲載された写真の説明書きには、きれいでダメージのないものなら古着でもこだわらずに扱うのが店の方針である旨、南米で製造されたウールの手袋は一八〇〇円という安さであり、手編みであるから一つとして同じ柄がなく、そこが人気のある理由であり、サイズもばらばらなのでチェックが必要である旨が書かれていた。

(一二)  本件商標については、平成元年二月八日付けで出願公告決定がされ、杉浦弁理士は、右出願公告の成功謝金二万六四〇〇円の請求書を原告中曽根信一宛に発行し、被告会社は、同年五月一五日、右二万六四〇〇円を杉浦弁理士に支払った。本件商標は、同年六月七日、出願公告された。

(一三)  被告会社の代表取締役は、秀夫と原告中曽根信一であったが、平成元年二月、秀夫が代表取締役を辞任し、代わりに曻が代表取締役になった。

被告会社は、同年三月、渋谷区渋谷一丁目二三番二六号に渋谷本店を開店し、その二階を本店の事務所とした。その後、一号店を閉店してその賃貸借契約を終了させた。曻は、渋谷本店を開店するときの資金の手当てや内装の手配をした。

被告会社の店舗においては、被告会社の資金によつて仕入れた商品の他に、原告中曽根信一の私費等により購入した商品を販売しており、同一店舗内の商品でありながら顧客に対する会計を別にするなどしていたが、同年九月、被告会社は、原告中曽根信一の所有する商品をすべて買い取った。

被告会社は、同年ころから従業員を雇うようになり、従業員の数は、後記の神宮前店を開店したときは一〇名を超え、S店を開店したときには、約二〇名となつていた。被告会社において、原告中曽根信一は、「社長」と呼ばれ、秀夫は「粂野さん」と呼ばれ、被告中曽根善江は、「社長の奥さん」と呼ばれ、曻は「日東の社長」と呼ばれていた。

被告会社は、同年一二月一〇日、有限会社ツインズから有限会社ラブラドールリトリーバーに商号を変更した。被告会社は、その後、平成六年一〇月五日に、有限会社から株式会社に組織変更した。

(一四)  被告会社は、平成四年九月一八日、渋谷区神宮前六丁目一六番一七号に神宮前店を開店し、平成六年九月、渋谷区神宮前六丁目一八番一六号にS店を開店した。

また、被告会社は、地方の小売店に卸売をしていた。

(一五)  一号店、渋谷本店、神宮前店、S店の経理は、すべて被告会社の経理として処理されていた。被告会社の売上げは、開業以来、平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの営業年度第五期までは毎年伸びていたが、平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの営業年度第六期の売上げは前年比三〇パーセント減少となった。それまで、被告会社が販売していた商品は輸入品が中心であったが、輸入品は、他の店が同じ商品を仕入れると売上げが少なくなるので、原告中曽根信一、秀夫らは、原告中曽根信一がデザインし、本件商標を付したオリジナル商品の販売に力を入れることにした。

被告会社は、平成五年ころから、オリジナル商品に力を入れるようになり、これが売れたため、その後、売上げは増え、平成六年一〇月一日から平成七年七月三一日までの営業年度第九期の売上げは、六億四〇〇〇万円になった。オリジナル商品のうち最も売れたのは、白地に本件商標をプリントしたTシャツであった。その他のオリジナル商品としては、若者向けのトレーナー、セーター、パーカー、ワンピース、布製のバッグ、髪飾り、ステッカー、傘、帽子、スカーフ等があった。

(一六)  被告会社において、原告中曽根信一は、オリジナル商品については、デザインをし、生地やプリント等の手配、製造業者への手配、卸先への納品等を行った。輸入品については、主に原告中曽根信一が米国で実際に商品を見て仕入れを行った。原告中曽根信一は、広告等も担当していた。

被告会社において、曻は、税理士に依頼するなどして帳簿の作成、税金の処理などの経理を行い、日東不動産の経営によって得た金融機関に対する信用を生かして、資金の調達を行った。被告会社の借入れには、曻が保証人となった。原告中曽根信一は、一日の売上げの現金を秀夫に渡し、秀夫はこれを曻に渡し、曻がこれを銀行に入金した。取引先への送金は、原告中曽根信一が曻に電話で振込先を指示し、曻がその指示通りに送金をしていた。

秀夫は、開業当初は、店舗において客の応対をしていたが、後に、被告会社の規模が大きくなると、渋谷本店の二階の事務室でファクシミリにより曻に送金を指示したり、伝票の整理をしたりすることが多くなった。

信夫は、被告会社の伝票の整理などをしていたが、平成二年三月、日東不動産の仕事に専念するために被告会社を退いた。

(一七)  被告会社は、平成五年六月一四日ころ、杉浦弁理士に対し、旧第一七類、旧第二一類について、「Labrador」という商標の商標調査を依頼し、杉浦弁理士に対し、その費用四万六五〇〇円を支払った。被告会社は、同月三〇日ころ、杉浦弁理士を代理人として、第二五類に「Labrador Retriever」という文字のみからなる商標及び「Golden Retriever」という文字のみからなる商標を出願し、第一八類に本件商標と同じ商標を出願した。これらの出願書類には、被告会社の代表取締役の肩書きを付した原告中曽根信一の記名と被告会社の代表取締役印の押印のある杉浦弁理士に対する委任状が添付されていた。原告中曽根信一は、当時、被告会社の代表取締役印を曻に預けていたが、右出願については、秀夫から説明を受けて了解していた。

(一八)  被告会社は、原告中曽根信一の発案により、フリーマーケットと称して、渋谷本店の前で、地面に段ボールを敷いて原告中曽根信一や店員の着古したものを客の目の前に並べ、その中に売れ残りの商品などかなりの種類の商品を混ぜ、定価二八〇〇円のTシャツを五〇〇円程度の価格で販売した。

(一九)  平成六年末ころから、原告中曽根信一と秀夫に性格の不一致があったこと、原告中曽根信一が曻の言動を不審に思ったことなどが原因で、原告中曽根信一と秀夫、曻との間に不信感が生じ、原告中曽根信一と秀夫、曻との関係が悪化していき、曻は、平成七年九月二一日、原告中曽根信一に対し、代表取締役を解任したこと、原告中曽根信一との以後の交渉は被告会社代理人弁護士を通じて行うこと、原告中曽根信一の被告会社への出社を拒否することなどを伝えた。

同月二二日、原告中曽根信一が被告会社の代表取締役を解任された旨の商業登記が行われた。

原告中曽根信一は、同年一〇月、被告会社の取締役を辞任した。

(二〇)  原告中曽根信一は、曻から被告会社の代表取締役の解任を通知された後、被告会社が倒産すると思い、被告会社の取引先に対し、被告会社にはデザインをする者がいないから、これから被告会社の商品がどうなるか分からない旨の話をした。

原告中曽根信一は、平成七年一〇月末、原告中曽根信一個人の名義で、オリジナル商品の製造業者にトレーナー等を発注し、できあがった商品に被告会社の所有に係る織ネームや値札を付けて自らのために販売した。

(二一)  原告中曽根信一は、平成七年一〇月二四日、被告会社に対し、本件商標の使用中止を申し入れた。また、原告中曽根信一は、同年一一月二〇日、被告会社に対し本件商標の使用差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て、同裁判所は、平成八年五月一三日、右仮処分の申立てを却下する旨の決定をし、原告中曽根信一は、東京高等裁判所に即時抗告をしたが、同年九月六日、右仮処分の申立てを取下げ、同年一一月七日、平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の訴えを提起した。被告会社は、これらの事件において、被告会社が本件商標の商標権者であると主張している。

(二二)  原告中曽根信一が被告会社の取締役を辞任した後、被告会社は、輸入品とオリジナル商品につき、卸売と渋谷本店、神宮前店、S店における小売を続けた。

被告会社は、原告中曽根信一が取締役を辞任した後も、従前と同じ製縫工場で製作されたオリジナル商品を販売している。被告会社は、オリジナル商品のTシャツに、原告中曽根信一在籍当時と同じ米国ヘインズ社のTシャツを使用している。また、被告会社は、原告中曽根信一が在籍した当時に販売していたトレーナー、セーター、パーカー、ワンピース、布製のバッグ、髪飾り、ステッカー、帽子、スカーフ等の販売を継続するほか、トレーナー、セーター、パーカー、ブラウス、帽子、バッグ、タオル、傘などに新たな種類のオリジナル商品を加えて、販売している。いずれのオリジナル商品も、若者向けのカジュアルウエアであるか又はカジュアルウエアと共に用いるようなものである。

被告会社は、神宮前店でオリジナル商品を主に扱い、渋谷本店で男性向けの輸入衣料品を主に扱い、S店で女性向けの輸入衣料品を主に扱っている。

被告会社は、原告中曽根信一が取締役を辞任した後、四、五〇社あった卸先の多くから取引を打ち切られたが、新たに、エルアール、ノイズ、エーブル、ブルーウェイ、生活倉庫といった店のほか、ロードジェムという卸業者やジャスコ、ユニーといった大規模店舗にも商品を卸すようになった。また、平成八年四月の後半に、神戸及び大阪のファッションビルに被告会社の商品を扱う店が開店した。

平成一〇年四月ころ、被告会社は、大分市に小売店を開店し、現在、小売店は四店舗である。

被告会社の小売と卸売の割合は約六対四であり、卸売も含めた全売上げ中にオリジナル商品の売上げが占める割合は、約八割である。

被告会社は、卸売において、色、サイズ、型が異なる商品をまとめて普通よりも安い価格で販売する、いわゆるアソート売りを行うことがある。また、数年前に販売した商品と同じデザインの商品を販売することもあった。

(二三)  被告会社は、毎年正月に安売りのセールを行うが、オリジナル商品の安売りは、正月のセールのときのみに行っている。被告会社は、平成九年一月四日から同月一五日まで及び平成一〇年一月三日から同月一五日までセールを行った。平成九年のセールのときには、五万円相当の品の入った福袋を一万円で五〇個販売するとチラシに記載し、平成一〇年のセールのときには、平成九年末に案内のはがきを顧客等に送付し、セールに際しては、店内で販売する商品を補充するために、店先の脇に段ボール箱を積んだ。セールのときの値引きの幅は、商品の種類によって、平常価格の二〇ないし八〇パーセント引き、三〇ないし四〇パーセント引き、五〇ないし七〇パーセント引きなどであった。

被告会社は、平成九年五月、フリーマーケットと称し、渋谷本店において、輸入品の安売りを行った。

(二四)  被告会社は、「ラブラドールリトリーバーは下記の3店舗です」、「ラブラドールリトリーバーは、都内で3店舗の展開しております。弊社のオリジナル商品は、一部例外を除き、弊社のみでしか購入できません。ご注意下さい。」と記載されたチラシを配布したことがあり、取引先と交わす「取引に関する確認書」には、本件商標と共に「右記ロゴ、マーク等を、有うする商品については、貴社と取引し、他社とは取引致しません(貴社以外の同様な商品による市場の混乱を避る為)」という条項が記載されている。

(二五)  被告会社には、ABCマートという会社から関誠が入社し、被告会社は、「I.T.C(ABCマート)からラブラドールリトリーバーへ移り、バイイング、企画、プレスの方を担当させて頂くことになりました。今秋冬は今迄にない新鮮なラブラドールを打出し、新しいスタートを切るつもりです。ややモードよりの斬新なデザインのヨーロッパ物から、スニーカー、シューズ、バッグ、小物類、今までのラブラドールの良き品々からオリジナル・ブランド迄、大幅な充実をはかります。お貸出し、取材等の際は、ぜひお気軽に声を掛けて下さい。惜しみのない協力をするつもりです。よろしくお願い申し上げます。尚、秋冬物は、8月末~9月に続々と入荷の予定です。」という文面に関誠の記名の入ったチラシをスタイリスト等に送付した。

(二六)  被告会社は、平成一〇年三月ころ、いわゆる同性愛者の集団であるMASAKI s FAMILY及びSGCの福島雅樹から、イベントを開催し、その収益金をエイズ撲滅に役立てるので協力してほしい旨の申入れを受け、エイズ撲滅に協力する趣旨で、「SGC」という文字、犬の図形及び「Labrador Retriever」という文字の入ったTシャツ、うちわを製作してこれをSGCに無償で寄付し、これらのTシャツ、うちわは、同年五月三日のSGCのイベントの際に配布された。福島は、MASAKI s FAMILY及びSGCの関係する雑誌Gメン同年四月号に、「今年の年間スポンサーとして『ラブラドール・レトリバー』とジョイント。共同でロゴマークのデザインや、プレミアムTシャツの制作が進行中だとか。」という記載を含む記事を載せ、同年五月号に、右Tシャツのデザイン画と共に「今年のツアーの公式Tシャツが、現在ラブラドール・レトリバーとMASAKI s FAMILYとのジョイントで制作中。」、「レトリバーとM's FAMILY'そしてSGCツアーのロゴがカッコ良くデザインされています。仕上がりがとても楽しみなこのTシャツ、お披露目は五月三日のイベント当日。」という記載を含む記事を載せ、同年四月ころ、男性の裸体写真と共に「続々と新商品の発売が決定していますが、次回の目玉商品はコレ!ラブラドール・レトリーバー Tシャツ、スウェットなどの定番商品はもちろん、キャップ、バッグおよび雑貨、ほとんど入手不可能といわれるオリジナルの『傘』やプレミアム商品等々、MASAKI s FAMILY 通販 桔梗屋なら手に入ります!」という文言を記載した広告をインターネットのMASAKI s FAMILYのホームページに掲載した。

原告中曽根信一は、同年四月、福島に対して、右Tシャツに使用されていた、犬の図形の下に「Labrador Retriever」という文字の書かれた標章の使用差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て、同裁判所は、同年五月一日、福島に対して右標章の使用差止めを命じる仮処分を発令した。

被告会社はSGCの年間スポンサーになったことはなく、SGCに対してTシャツとうちわを寄付しただけであり、前記のようにMASAKI s FAMILYやSGCの関係する雑誌に年間スポンサーになったなどという記事を掲載されたり、男性の裸体写真と共にインターネットに広告を掲載されることは、被告会社の意思に反することであったので、秀夫は、同月三一日ころ、福島と面談し、再び右のような雑誌やインターネットへ被告会社の名前などを掲載しないように申し入れた。福島は、秀夫に対し、口頭で謝罪し、「私のサークルである『MASAKI s FAMILY』のホームページの一部に誤解を招く恐れのある紛らわしい文章が掲載されましたので、ここに説明を致します。(1)ラブラドール・リトリーバーはイベントの主催ではなく協賛である。(2)イベントはジョイントで行ったのではなく、主催はMASAKI s FAMILYのみである。(3)イベント利益を『エイズ基金』への募金という社会福祉活動に賛同して、ラブラドール・リトリーバーは協賛した。(4)MASAKI s FAMILYの言う『協賛』とは、モノのプレゼントを頂いた企業に対して使用しています。」と記載され、福島の署名押印がされた文書を渡した。

(二七)  被告会社は、原告中曽根信一が被告会社に在籍していた当時から、被服、帽子及び履物に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に本件商標又は本件商標と類似する被告標章(二)若しくは(三)を付したものを展示、頒布し、本件商標を、渋谷本店、神宮前店、S店の看板、テントに使用している。

(二八)  原告中曽根信一は、被告会社の取締役を辞任した後、本件商標を使用した衣料品等の卸売をしていたが、平成八年四月二六日、渋谷区神宮前六丁目二三番二号に小売店を開店した。原告中曽根信一が取締役を辞任した後、被告会社との取引を打ち切った取引先は、原告中曽根信一と取引をしている。

原告中曽根信一の現在の小売と卸売の割合は、約二対八である。

(二九)  被告会社は、原告中曽根信一に対し、本件商標の使用料を支払ったことはなく、原告中曽根信一からその支払を請求されたこともない。

3(一)  右2認定の事実によると、本件商標登録の出願やその前提となる調査は、被告会社において衣料品等の販売を行うこととなり、店名を本件商標の称呼と同一の「ラブラドールリトリーバー」とすることに決めた後にされていること、本件商標登録に要する費用を被告会社が支出していること、本件商標の登録出願の手続に、秀夫らが関与しており、本件商標の犬の向きは、千代子の意見によって決まったこと、以上の事実が認められ、これらの事実によると、本件商標の登録は、被告会社における本件商標を使用した衣料品等の販売を予定してされたものであると認められる。もっとも、そうでありながら、原告中曽根信一が商標権者となっているのであるが、それは、右2認定の事実によると、その原形となる標章を原告中曽根信一がデザイナーに依頼して作成させたことや原告中曽根信一が中心となって衣料品等の販売を行うことが想定されていたためであると認められる。そして、右2認定の事実によると、商標権者である原告中曽根信一は、本件商標の登録が、被告会社における本件商標を使用した衣料品等の販売を予定してされることを認識し、そのことを容認していたものというべきである。

また、右2認定の事実によると、被告会社は、一号店の開業以来、本件商標を使用しており、殊に、本件商標を付したオリジナル商品は、被告会社の主力商品として欠かせないものとなっているほか、原告中曽根信一が被告会社に在籍していた当時から、本件商標に類似する被告標章(二)及び(三)を使用していると認められ、これらの標章、殊に本件商標の使用なくしては、被告会社の営業は成り立たないものと推認される。原告中曽根信一は、被告会社の代表取締役であったから、これらの事実を自ら作出したものというべきである。

さらに、右2認定の事実によると、被告会社における本件商標を使用した衣料品等の販売は、特に期間を限定して始められたものではなく、原告中曽根信一を含め、被告会社の役員、関係者は、右販売を継続して行うものと認識していたものと認められる。

(二)  そうすると、原告中曽根信一と被告会社の間には、本件商標並びに本件商標に類似する被告標章(二)及び(三)につき、黙示の使用許諾契約が成立していたものと認められる。そして、右2認定の事実に右(一)で述べたところを総合すると、右使用許諾契約の内容は、対価を無償とし、存続期間を、被告会社がこれらの標章を衣料品等の製造販売に使用する期間とするものであったと認められる。

なお、原告中曽根信一と被告会社の間に明示の専用使用権設定契約、独占的通常使用権許諾契約又は非独占的通常使用権許諾契約が締結された事実を認めるに足りる証拠はない。また、右2認定の事実に右(一)で述べたところを総合しても、原告中曽根信一と被告会社の間に、黙示の専用使用権設定契約、独占的通常使用権許諾契約が成立したものとまでいうことはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告会社が、被服又は帽子に、被告標章(一)(本件商標)又は被告標章(二)若しくは(三)を使用することは、本件商標権の侵害には当たらない。

(三)  原告中曽根信一は、本件商標を付した商品は、被告会社の商品としてではなく、原告中曽根信一の個性等を反映した商品として認識されており、原告中曽根信一イコールラブラドールリトリーバーであるという認識が需要者間に定着していると主張する。

確かに、右2認定の事実によると、原告中曽根信一は、被告会社の代表取締役であり、オリジナル商品のデザインは同原告が行っていたほか、商品の仕入れ等も、同原告が主に行っていたことが認められる。しかし、右2認定の事実に照らすと、被告会社は原告中曽根信一の活動のみで経営されていたものではなく、被告会社が会社としての実体を有していたことは明らかである。そして、このような被告会社が本件商標を使用して衣料品等の販売を行っていたのであるから、被告会社による本件商標の使用を原告中曽根信一による本件商標の使用と同一視することはできず、被告会社と原告中曽根信一との間には、右認定のとおり、使用許諾契約の成立を認めることができ、その存続期間を、原告中曽根信一が被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができる期間に限定すべき理由もない。

(四)  原告中曽根信一は、商標権の存続期間は一〇年であるから、被告会社主張に係る使用許諾契約の成立を認めると、商標権者である原告中曽根信一は、本件商標権について更新義務を負うことになるが、このような更新義務を課する契約の成立を黙示の意思表示により認めるのは、当事者の合理的意思の解釈を超え、商標権の存続期間を規定する商標法の趣旨に合致しないと主張する。

しかし、商標の使用許諾契約において、商標権者は、特段の約定がなくとも当然に商標権の更新義務を負うものではないから、原告中曽根信一の右主張は、その前提を欠き、採用することができない。

(五)  原告中曽根信一は、存続期間が不明確な黙示の使用許諾契約の成立を認めるのは社会通念に合致しないとも主張する。

しかし、右(二)認定の使用許諾契約の存続期間は、数字によって限定されていないものの、それ自体不明確であるとはいえないから、原告中曽根信一の右主張は、採用することができない。

4  次に、右3(二)認定の使用許諾契約が解除されたかどうかについて判断する。

(一)  原告中曽根信一から本件商標等の使用を許諾された被告会社は、信義則上、その商標使用に関して原告中曽根信一にとって不利益な行為を行わないなどの義務を負っているものということができ、被告会社にそれらの義務の不履行があり、両者の信頼関係が破壊された場合には、原告中曽根信一は右使用許諾契約を解除することができるものというべきである。

(二)  原告中曽根信一は、被告会社が、仮処分事件、その即時抗告事件、本訴において、一貫して被告会社が本件商標の商標権者であると主張していることをもって、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由であると主張する。

被告会社は、前示のとおり本件商標権について商標権者ではないから、本件商標権について自らが商標権者であると主張することは、その行為が、原告中曽根信一に対する関係で、信義則に反する行為であると評価されてもやむを得ない面があるということができる。しかし、原告中曽根信一は、右3のとおり被告会社が本件商標等を使用することができるにもかかわらず、右2(二一)認定のとおり、平成七年一〇月二四日、被告会社に対し、本件商標の使用中止を申し入れ、同年一一月二〇日、本件商標の使用差止めの仮処分を申し立て、平成八年一一月七日には、平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の訴えを提起したものであって、被告会社は、原告中曽根信一の右の使用中止等の主張に対抗するために、被告会社が本件商標の商標権者である旨を主張したものと解される(なお、平成九年(ワ)第一七六六五号事件において、被告会社は、原告中曽根信一に対して、本件商標権の移転登録手続をすることを求めているが、この訴訟は、平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の訴え提起の約九か月後である平成九年八月に提起されたものであって、この事実に右2認定に係る被告会社と原告中曽根信一との間の一連の紛争の経過をも合わせて考えると、被告会社は、原告中曽根信一の右の使用中止等の主張に対抗するために、平成九年(ワ)第一七六六五号事件を提起したものと認められる。)。そして、以上の事実に、右2認定に係る被告会社が本件商標を使用してきた経緯を合わせて考えると、被告会社が本件商標権について自らが商標権者であると主張したことをもって、被告会社と原告中曽根信一との信頼関係を破壊するもので、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由であるとすることはできない。

(三)  原告中曽根信一は、被告会社が、「ラブラドールリトリーバーは下記の3店舗です」、「ラブラドールリトリーバーは、都内で3店舗の展開しております。弊社のオリジナル商品は、一部例外を除き、弊社のみでしか購入できません。ご注意下さい。」と記載されたチラシを配布していること、被告会社が、取引先と交わす「取引に関する確認書」に、「右記ロゴ、マーク等を、有うする商品については、貴社と取引し、他社とは取引致しません(貴社以外の同様な商品による市場の混乱を避る為)」という条項を記載していることをもって、解除を認めるべき事由であると主張しているところ、右2(二四)認定のとおり、右チラシ配布及び条項記載の事実が認められる。

しかし、右チラシの文言は、真実に反するとは認められないし、それが直ちに原告中曽根信一の名誉や信用を毀損するということもできない。また、被告会社が、顧客及び取引先に対して、自らの商品と原告中曽根信一の商品の混同を避けるための措置を講じることを、あながち不当であるということもできない。したがって、被告会社が、右チラシを配布し、右確認書を取引先と交わしたことについて、本件商標の使用許諾契約における信義則上の義務に違反するということはできず、右使用許諾契約の解除を認めるべき事由に当たることはない。

(四)(1)  原告中曽根信一は、被告会社が、原告中曽根信一の店舗は本件商標を付した偽物を販売している店であるなどと顧客に流布していること、被告会社の指示により、京都の被告会社の卸先の店舗に、「当店のラブラドールリトリーバーの商品は、東京のラブラドールリトリーバーと同じ商品であり、類似品にご注意ください。」という、原告中曽根信一の扱う商品が偽物であるかのような貼紙が出されていることを主張し、これらが本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由に当たると主張する。

(2)  原告中曽根信一の陳述書である甲第二五号証には、原告中曽根信一の店に来た顧客の話として、被告会社の店の店員が、顧客から問われて原告中曽根信一の店のことを「全く関係のない偽物をおいてある店だ」と言ったという趣旨の記載がある。しかし、被告会社の店員の右発言は、顧客から聞いたというのみの伝聞であって、店員がその言葉のとおりの発言をしたと直ちに認められるものではない。

(3)  甲第二五号証には、原告中曽根信一の京都の卸先に関する記載があるが、これは、甲第二六号証の陳述書を書いた京都の木浦貴之のことであると推認されるので、甲第二六の号証を検討すると、同号証には、京都市内の被告会社の卸先であるマジックトーストという店に、「当店のラブラドールリトリーバーの商品は、東京・渋谷のラブラドールと同じ商品であり、類似品にご注意ください。」と書かれた貼紙がされていた旨及びマジックトーストの店員が、顧客に対し、木浦の店の商品が偽物であるという内容の説明をした旨が書かれている。

しかし、マジックトーストの店員が顧客に対して具体的にどのような言葉で説明をしたのかは、甲第二六号証によっても明らかでない上、マジックトーストの店員の発言は、顧客から聞いたというのみの伝聞であるから、マジックトーストの店員が右陳述書に記載されているような内容の説明をしたと直ちに認められるものではない。また、右貼紙については、その文言が、真実に反するとは認められないし、直ちに原告中曽根信一の名誉や信用を毀損するということもできない。さらに、そもそも、被告会社が、マジックトーストに対して、右のような行為を行うように働きかけたことを認めるに足りる証拠はない。

(4)  甲第二七号証には、顧客の話として、被告会社の京都の卸先の店の店員が、顧客に対し、「私共以外の店で類似品を売っているので気を付けてください。」と言った旨が書かれている。

しかし、右の店員の発言についても、伝聞であって、店員がその言葉のとおりの発言をしたと直ちに認められるものではない。また、仮にそのような発言があったとしても、それが、真実に反するとは認められないし、直ちに原告中曽根信一の名誉や信用を毀損するということもできない。さらに、被告会社が卸先に対して、店員が右のような発言をするように働きかけたことを認めるに足りる証拠はない。

(5)  その他、被告会社が、原告中曽根信一の店舗は偽物を販売している店であるなどと流布していることを認めるに足りる証拠はない。

(6)  したがって、原告中曽根信一の右(1)の主張を採用することはできない。

(五)(1)  原告中曽根信一は、被告会社が本件商標のブランドイメージを損なう行為を行ったと主張し、それが、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由に当たると主張する。

そして、原告中曽根信一は、その本人尋問において、本件商標のブランドイメージは、母親が娘を連れてきて安心して買うことができるような家庭的な温かさである旨供述する。しかし、このブランドイメージと言われているものは、極めて漠然としており、その内容が不明確である上、右2認定の事実に照らしても、本件商標のブランドイメージが、右のようなものであることを認めることはできないから、本件商標のブランドイメージが右のようなものであることを前提に解除事由の判断をすることはできない。

原告中曽根信一の主張(前記第二(平成八年(ワ)第二一七九〇号事件)五2(三)(1))によると、原告中曽根信一が、被告会社が本件商標のブランドイメージを損なう行為を行ったと主張している行為は、ブランドイメージを変更した商品を扱う旨述べた行為、セールを行うなどの本件商標について高級感を失わせる行為、同性愛者の団体のスポンサーとなって商品の宣伝広告及び販売活動を行っている行為に分類することができるので、それぞれについて判断する。

(2)  ブランドイメージを変更した商品を扱う旨述べた行為右2(二五)認定のとおり、被告会社に関誠が入社した際に、チラシをスタイリスト等に送付したことが認められる。この文言中には、「今迄にない新鮮なラブラドールを打出し、新しいスタートを切るつもりです。」という文言があるが、それのみで、被告会社が本件商標のブランドイメージを損なう行為を行ったということができないことは明らかであり、他に被告会社がブランドイメージを変更した商品を扱う旨述べて本件商標のブランドイメージを損った事実を認めるに足りる証拠はない。

(3)  セールを行うなどの本件商標について高級感を失わせる行為

〈1〉ア 原告中曽根信一は、被告会社が本件商標を付した商品をファッションビルの一角の販売店に販売し、数年前の商品をリピートした商品を販売していること、被告会社がアソート売りを行っていることが、本件商標のブランドイメージを損なう行為であると主張する。また、原告中曽根信一は、被告会社が、本件商標を付した商品がどのような業者によって、どのような店舗において、どのような形態で販売されているかを把握していないことが、本件商標のブランドイメージを損なう行為に当たると主張する。

イ しかし、右2認定のとおり、被告会社は、原告中曽根信一が在籍した当時から卸売を行っており、被告会社の現在の小売と卸売の割合は、約六対四であり、原告中曽根一の現在の小売と卸売の割合は、約二対八であって、いずれについても卸売の割合が相当高い。また、右2認定の事実によると、被告会社は、原告中曽根信一の在籍当時から、古着や、サイズ、柄が統一されていない安価な手袋などを積極的に販売していたことが認められる。そして、被告会社は、原告中曽根信一の在籍当時には、原告中曽根信一の発案により、右2(一八)認定のような販売形態及び価格で、フリーマーケットと称するセールを行っていたものである。さらに、右2認定の事実によると、原告中曽根信一が在籍した当時から被告会社で販売していた商品は、輸入品としては米国から輸入したカジュアルウエア、オリジナル商品としては若者向けのトレーナー、セーター、パーカー、ワンピース、布製のバッグ、髪飾り、ステッカー、傘、帽子、スカーフ等であり、オリジナル商品のうちで最も売れたのは、白地に本件商標をプリントしたTシャツであると認められる。これらの事実に鑑みると、原告中曽根信一が被告会社に在籍した当時から現在に至るまで、本件商標が、限定された対面販売の衣料品店やデパートのような高級店のみで販売されている安売りをしない商品というイメージを有していたと認めることはできず、これに反する原告中曽根信一本人尋問の結果は採用することができない。

ウ そうすると、右2(二三)認定のとおり、被告会社の本件商標を付した商品がファッションビルにある販売店や大規模店舗で販売されており、被告会社がアソート売りを行うことがあり、また、数年前に販売した商品と同じデザインの商品を販売することがあったとしても、それが直ちに本件商標のブランドイメージを損なう行為であるということはできない。

また、証人粂野秀夫の証言によると、被告会社は、商品の卸先について把握しているものと認められるし、右イ認定の事実によると、本件商標を付した商品は、卸先の販売状況を逐一把握しなければ不適切な販売がなされるとまでいうことはできず、被告会社の把握していない卸先で不適切な販売がされた具体的な事実を認めるに足りる証拠もない。

〈2〉 原告中曽根信一は、被告会社が行うセールが、本件商標のブランドイメージを損なうと主張するところ、右2(二三)認定のとおり、被告会社は、セールを行ったことが認められる。

しかし、右2(一八)認定のとおり、被告会社は、原告中曽根信一の発案により、安売りをしていたこと、右〈1〉イ認定のとおり、本件商標が、限定された対面販売の衣料品店やデパートのような高級店のみで販売されている安売りをしない商品というイメージを有していたと認めることはできないこと、弁論の全趣旨によると、衣料品については、有名ブランドのブティックなどでも安売りが行われることがあるものと認められること及び右2(二三)認定の被告会社が行ったセールの態様を総合すると、被告会社が平成九年一月四日ないし同月一五日、同年五月、平成一〇年一月三日ないし同月一五日に行ったセールは、本件商標のブランドイメージを損な行為であるということはできない。なお、原告中曽根信一は、被告会社が平成九年一〇月一三日、一一月一三日にフリーマーケットと称する安売りをしたと主張し、甲第三八号証には、被告会社が平成八年一〇月一三日、一一月一三日にフリーマーケットと称する安売りを行った旨の記述があるが、その記述のみでは、右主張に係る事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(4)  同性愛者の団体のスポンサーとなって商品の宣伝広告及び販売活動を行っている行為

〈1〉 原告中曽根信一は、被告会社がいわゆる同性愛者で組織された任意クラブのスポンサーとなり、同クラブを通じて、本件商標に類似する商標を付した商品の宣伝並びに販売活動を行っていることが、本件商標のブランドイメージを損なう行為であると主張するところ、この点に関する事実関係は、右2(二六)認定のとおりである。

〈2〉 甲第五六号証、第六二号証の一ないし三によると、SGCの文字、犬の図形及び「Labrador Retriever」という文字の入ったTシャツ、うちわは、公序良俗に反するような外観のものではなく、一般にも受け入れられるデザインのものであるから、これらを製作して寄付すること自体は、本件商標のブランドイメージを損なうということはできない。また、被告会社は、エイズ撲滅に協力するという趣旨でSGCにTシャツ、うちわを寄付したものであり、MASAKI s FAMILY及びSGCの関係する雑誌に年間スポン掌として記載されたり、インターネットに男性の裸体写真と共に広告が掲載されたことは、被告会社の意思に反することであって、被告会社は、福島に再びそのような雑誌やインターネットへ被告会社の名前などを掲載しないように申し入れ、福島から口頭で謝罪を受け、右2(二六)認定の文書を受け取ったものである。

したがって、被告会社がSGCにTシャツやうちわを寄付したこと及びそれに関する被告会社の対応は、本件商標のブランドイメージを損なう行為であったということはできない。

(5)  そもそも、被告会社にとって、原告中曽根信一が在籍していた当時に形成された本件商標に対する信頼を維持することが利益になることは明らかであるから、被告会社が積極的にそのブランドイメージを損なう行為を行うとは考え難く、右2(二二)認定のとおり、被告会社は、原告中曽根信一が在籍していた当時と同様の商品を販売するよう努めているものと認められる。

(6)  したがって、原告中曽根信一の右(1)の主張を採用することはできない。

(六)  原告中曽根信一は、昇から被告会社の代表取締役を解任した旨及び以後の出社を拒否する旨を言い渡され、被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができなくなり、原告中曽根信一と被告会社の間の信頼関係が破壊されたことをもって、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由であると主張する。

しかし、原告中曽根信一が、曻から被告会社の代表取締役を解任した旨及び以後の出社を拒否する旨を言い渡され、被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができなくなったからといって、被告会社に使用許諾契約における義務違反が存するわけではなく、その他、この事実をもって原告中曽根信一が使用許諾契約を解除することができる事由が存するということはできないから、原告中曽根信一の右主張は、採用することができない。

八  以上によると、原告中曽根信一の請求は、いずれも理由がない。

(平成八年(ワ)第二二四二八号事件)

一1  弁論の全趣旨によると、請求原因1(一)の事実が認められる。

2  請求原因1(二)の事実のうち、被告阿久澤が、前橋市千代田町四丁目三番四号において、「LR」という名称の被告阿久澤店舗を開設し、業として衣料品、履物等の販売を行っていることは当事者間に争いがない。

丙第一号証、第二号証及び弁論の全趣旨によると、被告阿久澤は、平成八年二月、被告阿久澤店舗を開設したことが認められる。

二  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件二のとおり、本件商標権は、原告中曽根信一に帰属する。

三  請求原因3の事実のうち、包装紙については、これを認めるに足りる証拠がなく、その余の事実は、当事者間に争いがない。

四  請求原因4は、当事者間に争いがない。

五  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件五のとおり、被服及び帽子は本件商標の指定商品に該当するが、履物は、本件商標の指定商品に該当せず、右指定商品と類似しない。

六  右五のとおり、履物は本件商標の指定商品ではなく、右指定商品と類似しないので、請求原因6のうち、被告阿久澤の行為が、被告標章(一)の使用に当たるかどうかについて、被服又は帽子につき判断する。

被告阿久澤が、被告標章(一)を付した被服又は帽子を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示すること、被服又は帽子が現実に包装されている包装容器、包装袋で、被告標章(一)が付されているものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示することは、商標法二条三項二号により、被告標章(一)を被服又は帽子に使用したことに当たる。しかし、被服又は帽子が現実に包装されていない包装容器、包装袋で、被告標章(一)を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示することは、被服又は帽子に被告標章(一)を使用したことに当たらない。丙第六号証及び弁論の全趣旨によると、被告阿久澤は、被告会社から被告標章(一)を付した包装袋を仕入れ、顧客が購入した被服、帽子等をこれに入れて顧客に渡していることが認められるが、それ以外には、被告阿久澤が、被服又は帽子が現実に包装されている包装容器、包装袋で、被告標章(一)が付されているものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示している事実は認められない。

被告阿久澤が、被服又は帽子に関する広告に被告標章(一)を付したものを展示することは、商標法二条三項七号により、被服又は帽子に被告標章(一)を使用したことに当たる。丙第一号証、第二号証、第四号証、証人粂野秀夫の証言及び弁論の全趣旨によると、被告阿久澤は、被告阿久澤店舗において、主に被服及び帽子を展示、販売しているものと認められるから、被告阿久澤が、被告標章(一)を、同店舗の看板、ショウウィンドウに付すことは、被服又は帽子に関する広告に被告標章(一)を付して展示する行為であると認められ、商標法二条三項七号により、被服又は帽子に被告標章(一)を使用したことに当たる。

七1  そこで、被告阿久澤が被服又は帽子に被告標章(一)を使用することが本件商標権の侵害に当たるかどうかを判断するために、抗弁1(一)、再抗弁1、2について検討すると、この点についての判断は、前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件七2ないし4のとおりであり、被告会社は、原告中曽根信一との間の黙示の使用許諾契約に基づき、被服又は帽子に被告標章(一)を使用することができるものである。

2  次に、抗弁1(二)、(三)について判断する。

丙第一号証、第二号証、第四号証ないし第六号証、証人粂野秀夫の証言及び弁論の全趣旨によると、被告阿久澤は、平成元年から前橋市で美容院を経営しており、平成七年一月ころから同年の夏ころまで、被告会社から商品を仕入れて美容院で販売していたが、平成八年二月、被告阿久澤店舗を開設し、それ以後、被告会社から被告標章(一)を付した被服、帽子等を仕入れ、同店舗において展示、販売していること、被告阿久澤は、同年夏ころ以降は、被告会社から被告標章(一)を付した包装袋を仕入れ、顧客が購入した被服、帽子等をこれに入れて顧客に渡していること、同店舗には、被告標章(一)を付した看板が掲げられており、そのショウウインドウには、被告標章(一)のステッカーが貼られていること、同店舗において販売されている商品は、すべて被告会社から仕入れたものであること、以上の各事実が認められる。

前記1のとおり、被告会社は、被告標章(一)を使用する権原を有するから、被告阿久澤が、被告標章(一)を付した被服又は帽子を被告会社から仕入れ、これを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示することは、本件商標権を侵害するものではない。また、顧客が購入した被服又は帽子を、被告会社から仕入れた被告標章(一)を付した包装袋に入れて顧客に渡すこと、被告阿久澤店舗に、被告標章(一)を付した看板を掲げ、そのショウウィンドウに、被告標章(一)のステッカーを貼ることについては、前記のとおり同店舗において販売されている商品がすべて被告標章(一)について使用権原を有する被告会社から仕入れたものであることからすると、右各行為によって本件商標の商品に関する出所の識別機能が害されることはないと認められるから、右各行為は本件商標権を侵害するものではない。

八  以上によると、原告中曽根信一の請求は、いずれも理由がない。

(平成九年(ワ)第一七六六四号事件)

一  請求原因1(一)、3(一)について

1  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件七2認定の事実からすると、本件商標は、遅くとも平成七年一〇月末ころには、被告会社の商品表示として広く知られていたものと認められる。

2  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件七2(二〇)認定のとおり、原告中曽根信一は、平成七年一〇月末、原告中曽根信一個人の名義で、オリジナル商品の製造業者にトレーナー等を発注し、できあがった商品に被告会社の所有に係る織ネームや値札を付けて自らのために販売したことが認められる。

3(一)  しかし、原告中曽根信一が右商品を別紙卸先一覧表記載の卸先に販売したことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  また、仮に、原告中曽根信一が右商品を被告会社の卸先に販売したとしても、前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件七2認定の事実によると、被告会社は、原告中曽根信一が代表取締役として中心となって経営してきた会社で、オリジナル商品のデザインは同原告が行っていたほか、商品の仕入れ等も主に同原告が行ってきたところ、オリジナル商品のデザインや商品の仕入れは、被告会社の経営に欠くことのできない重要なものであると認められ、卸先はこれらの事実を知っていたものと推認することができるから、卸先が、原告中曽根信一の在籍しない被告会社の商品供給能力に不安を抱いて取引を打ち切り、原告中曽根信一と取引をするのは当然のことであると考えられる。そうすると、原告中曽根信一が右2の商品を販売しなかったとしても、被告会社が、右2の商品と同種の商品を卸先に販売することができたとまでは認められず、ましてや、その後、被告会社と卸先との取引が継続されたとは認められない。

(三)  したがって、原告中曽根信一の右2の行為により、被告会社が卸先から取引を打ち切られ、その取引によって得べかりし利益を喪失したとは認められない。

二  請求原因1(二)について

1  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件七2(二〇)認定のとおり、原告中曽根信一は、曻から被告会社の代表取締役の解任を通知された後、被告会社が倒産すると思い、被告会社の取引先に対し、被告会社にはデザインをする者がいないから、これから被告会社の商品がどうなるか分からない旨の話をしたことが認められる。しかし、請求原因1(二)の事実のうち、右認定の事実以外の事実を認めるに足りる証拠はない。

前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件七2認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告会社には、原告中曽根信一以外にデザインをする者がいなかったことは真実であると認められ、また、同事件七2認定のとおり、被告会社においては、オリジナル商品が重要な取引商品であったから、これから被告会社の商品がどうなるか分からない旨の発言も必ずしも真実に反するものではない。しかも、これらの事実はかなりの程度取引先にも知られていたものと推認される。

そうすると、原告中曽根信一が被告会社の取引先に対して右の発言をしたことが直ちに不法行為であるということはできず、他にこの発言を不法行為であるとすべき事情は認められない。

2  また、仮に、原告中曽根信一が被告会社の取引先に対して右の発言をしたことが不法行為に当たるとしても、前記一3(二)及び右1で述べたところに照らすと、この行為がなければ、被告会社は取引先との取引を継続することができたとまでは認められない。したがって、原告中曽根信一の右の行為により、被告会社が取引先から取引を打ち切られ、その取引によって得べかりし利益を喪失したとは認められない。

三  よって、被告会社の請求は、いずれも理由がない。

(平成九年(ワ)第一七六六五号事件)

一  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件二のとおり、本件商標権は、原告中曽根信一に帰属しており、被告会社に商標権が帰属することはないから、請求原因1は、理由がない。

二  前記平成八年(ワ)第二一七九〇号事件七2認定の事実からすると、同事件七3で認定したとおり、本件商標の登録は、被告会社における本件商標を使用した衣料品等の販売を予定してされたものであると認められるのであるが、そうであるからといって、直ちに、原告中曽根信一が、被告会社の事務として出願したということはできず、その他、原告中曽根信一が、被告会社の事務として本件商標の登録出願をしたとすべき事実を認めることはできないから、請求原因2も、理由がない。

三  よって、被告会社の請求は、いずれも理由がない。

(結論)

以上によると、原告中曽根信一の請求及び被告会社の請求は、いずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

被告標章目録

〈省略〉

商標権目録

登録番号 第二二〇二四四五号

出願年月日 昭和六二年一二月二四日

出願公告年月日 平成元年六月七日

登録年月日 平成二年一月三〇日

商品の区分 第一七類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令一条別表による区分)

指定商品 被服、その他本類に属する商品

登録商標

〈省略〉

卸先一覧表

取引先店名 所在地

パームス 静岡県静岡市両替町2-1-6

Annie Blue 大阪府大阪市中央区西心斎橋2-8-29

GIOTTO(ピーナツファーム) 和歌山県和歌山市米屋町8番地

エクスブローラー 熊本県熊本市楠8-1-25

ダンガリーズ 愛知県名古屋市名東区明ヶ岡124

C.M.B 愛知県豊田市小坂町1-17

アメリカンドリーム 山形県村山市館岡高町3-19

ペリカンハウス 三重県四日市市諏訪栄町5-10

FUNKS 愛知県一宮市本町4-10-1

スチームボート 秋田県秋田市大町1-3-3

agrea blmant 香川県高松市瓦町1-13-1

Light Plane 福井県福井市松城町12-7

スピル アンド ルー 三重県津声大門10-1

ムーヴ・クロージング 滋賀県彦根市中央町1-8

アメリカンクロージングカンパニー 福岡県久留米市通東町2-15

Feel styles 千葉県館山市北条1753

取引先店名 所在地

パサディナ ゼネラルストアー 新潟県新潟市古町通り5-630

Louis 熊本県熊本市上通町7-2

BINGO 大分県大分市府内町3-7-35

カービング 宮城県仙台市宮城野区花京院通7-11

OBLIQUE 茨城県水戸市南町2-4-58

ナックル アロウ 青森県弘前市土手町173

LOOP 新潟県上越市春日野1-3-11

Sea Scape 高知県中村市天神橋32

ドッグスクール・コロ 福岡県行橋市長木284-1

CHOOSE 福井県武生市村国3-67-54-4

被告所在地目録

一 東京都渋谷区渋谷一丁目二三番二六号一階及び二階

二 東京都渋谷区神宮前六丁目一六番一七号一階

三 東京都渋谷区神宮前一八番一六号一階

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